しかし、ものごとはそう簡単には進まない。

まず、妻が店をたたむことにすると言い出した。
 当時、妻の収入はサラリーマンの私よりも断然多く、生活経費の中の大きな部分(主に娯楽や贅沢)を締めていた。
 店の経営は家賃、光熱費はもちろん、人件費という大きなマイナスを常に埋めなければ成り立たない。
 客の入りがまさに半減してしまった状態では、利益を出すのは難しく、バブル崩壊後、閉店を決断するまでの約一年間で、それまでの貯えをほぼ使い果たしてしまった。
 開店以来、赤字になったことがなかった為、彼女の心境は穏やかではなかった。
 それまで、見せたことがない怒りや悲しみを表現する様になっていた。
 いままで、大きな挫折もなく、順風満帆な人生を送ってきた28歳の女性は、自分は間違いなく、成功者の一人だと思い込んでいたのだろう。
 彼女を信頼し、助言を求める人もいれば、共同経営の話を持ちかける者を多くいた。
 それらは、更に彼女の思い上がりに拍車を掛けていき、自伝の出版を持ちかける出版社もあった。・・崩壊直前までの出来事だった。
 その後の彼女の変貌は、生活を共にしていた私にしか分からない。
 はじめは妊娠の影響かとも思っていたが、そればかりでは無いようだ。